法律家の文章(その1)

1. 法律家の文章に難解な用語が使用される背景

 法律家の文章を読んで感ずるのは、日常用語としては使われないような難解な用語が使用されることが多いということです。もちろん、法律の世界には、独特の専門用語があり、必要な場合には、難解なものであっても専門用語を用いなければならないことは当然ですが、ここで取り上げるのは、それ以外の用語についてです。この記事では、このような用語の代表例として、「かかる」(このようななどの意)、「係る」(~に関係があるなどの意)、「当該」(それに当たる、そのなどの意)の3語を取り上げ、他の用語に言い換えることが可能か、他の用語に言い換えるのが適切であるかなどについて考えてみたいと思います。

 なお、このような用語が多く使用される背景を推測すれば、法律家の文章には伝統的に漢語調、文語調の硬い表現が好んで用いられてきたこと、これらの用語は、いずれも、日常会話や新聞、雑誌などでは通常用いない用語であるため、これを用いると、いかにも専門家の作成した権威のある文書であるとの印象を与えることなどがあるのかも知れません。しかし、判決文や法令を含む公用文について、文章の平易化が望まれている現在、上記のような事柄に配慮することは無用であり、むしろ、文章を分かりやすくし、平易な用語を用いて説得力のあるものにすることの方が重要であるというべきでしょう。本稿では、このような観点から、法律家の文章に用いられる用語について、考えてみたいと思います。

2. 「かかる」について

 国語辞典(大辞泉)によれば、「かかる」は、漢字では「斯かる」と表記し(ただし、「斯」は、常用漢字外)、「かくある」が変化したもので、「このような」の意味であるとされています。「かかる」は、その原型である「かくある」の語からも分かるように、文語調の用語であり、日常用語で用いられることはほとんどありません。新聞関係者のための用字用語辞典である「記者ハンドブック(共同通信社刊)」、「朝日新聞の用語の手引(新版)(朝日新聞出版刊)」にも、上記の意味の「かかる」は、登載されていませんので、マスメディアでは、通常用いることのない用語であると考えられます。また、最近では、多くの地方自治体などが「お役所言葉改善の手引」などの参考資料を公表し、言い換えるべき言葉とその言い換え例を示していますが、これらの多くにおいても、「かかる」が取り上げられ、「このような」と言い換えるべきものとされています。

 このように、「かかる」は、読む者に硬い印象を与える文語調の表現ですから、現代文に用いると違和感が生じますし、また、「このような」などの日常用語と言いに換えても意味が変わりませんので、「このような」などに言い換えるのが適当であると言えるでしょう。「かかる」の言い換え例としては、上記手引などが示している「このような」が適当な場合が多いでしょうが、「この」、「その」、「上記」、「同」などを適当とする場合もあり、また、「かかる」を削除しても意味が十分通じる場合もありますので、それぞれの文脈に応じ、適切な表現を工夫すべきでしょう。

 なお、総務省の法令データ検索システムの検索結果では、「かかる」は、現行の憲法・法律においては、日本国憲法(16条)と4法律で用いられているにとどまっています。また、裁判所の判決においても、かつては「かかる」という表現がしばしば用いられていましたが、最近の判決では、判決の平易化などの観点から、ほとんど使用していないようです。

(続く)

[弁護士 柳田幸三]

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