法律家の文章(その2)

3. 「係る」について

(1) 法令において「係る」が多用される理由

 「係る」は、日常用語として、全く用いられないというわけではありませんが、主として法令や公文書などに用いられる表現で、特に、法令においては 、多用されている用語です。国語辞典(広辞苑)によれば、「係る」は、「かかわる、関係する」の意であるとされています(広辞苑)。

 「係る」は、硬い印象を与える言葉であるため、多くの地方自治体などが公表している「お役所言葉改善の手引」などの資料においては、言い換えるべき言葉の一つとして取り上げられています(杉並区役所区長室総務課編「外来語・役所ことば言い換え帳」(ぎょうせい刊)160頁)。なお、同書では、「係る」の言い換え例として、「~に関する」、「~についての」を挙げています。

 一方、法令においては、「係る」は、上記の国語辞典にあるような、「かかわる、関係する」という意味を基本としつつも、独特の意味とニュアンスを持った用語として用いられています。
法制執務研究会編「新訂ワークブック法制執務」(ぎょうせい刊)によれば、「係る」について、「……に係る」という語は、法令では、ある語句と他の語句とのつながりを示す場合に、関係代名詞的な用語として広く用いられる、その意味は、用いられる場合場合に応じ、「……に関係がある」、「……についての」とか、「に属する」とか、「の」等の意味を表すものとして用いられるとされています(678頁)。なお、法令で用いる場合、「係る」は、結び付けられる用語が「関する」よりも、更に直接的な関係にある場合に用いられると言われています。

 そうすると、「Aに係るB」は、AとBとの間に何らかの関連がある場合に用いられる表現ですが、用いられる場合に応じて、「Aに関するB」、「AについてのB」、「Aに属するB」、「AのB」などと言い換えられそうです。しかし、用語の厳密性と正確性を要求される法令の世界では、これらの言い換えでは、正確に意味内容を表現できないか、適切な表現にならない場合があり、また、他の用語で表現できる場合でも、表現が長くなり、簡潔性を欠く場合が少なくないのです。

 少し、具体例を挙げますと、会社法第128条第1項本文は、「当該株式に係る株券」という表現を用いています。会社法上、「株式」とは株式会社の株主としての地位を、「株券」とは株式会社の株主としての地位を表章する有価証券を意味します。すなわち、株式を表章する有価証券が株券ですから、両者の関係から考えると、「株式に関する株券」、「株式についての株券」などが適切な表現であるとは言えません。

 他方、両者は、概念上、株式を表章する有価証券が株券であるという関係にありますので、「当該株式に係る株券」といえば、当該株式を表章する株券の意味であることが容易に理解できます。そこで、両者を結ぶ簡潔な言葉として「係る」が用いられていると考えられます。

 また、民事訴訟法第19条本文は、「第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者の申立て及び相手方の同意があるときは、訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならない。」と規定しています。この条文にいう「申立てに係る地方裁判所」とは、前後の文脈からすると、当事者が訴訟の移送の申立てにおいて移送を求めた先の裁判所(移送先の裁判所)の意味に解されることになります。

 この場合、「に関する」、「についての」などの語による言い換えはできませんし、また、上記のような趣旨を正確に表現することは不可能ではありませんが、長くなり、簡潔性を欠くことになりますので、条文上、上記のような表現が用いられていると思われます。

 このように、「係る」は、他の表現では的確に意味内容を表現することができない場合にも用いることができ、字数も2字で簡潔であるため、いろいろな場面で使いやすい表現として多くの法令において用いられています。

 他方、「係る」という表現は、その意味内容としては、「係る」で結び付けられる両者の間に何らかの関連があることを示すにすぎませんから、これが具体的にどのような意味を有するのかは、解釈によって確定する必要があることにならざるを得ません。言い換えれば、「係る」を用いた条文の表現は、かなり幅広く用いることができる反面、意味があいまいで、不明確となるという問題点を生じさせる余地があるのです。

 上記新訂ワークブック法制執務も、「便利な語であるだけに意味の不明確さを伴いやすい面があることも否めない。」と指摘しています(678頁)。

 また、「係る」には、「労働契約に係る判例」(国家戦略特別区域法第37条第2項)のような用例もあります。しかし、この表現は、「労働契約に関する判例」と言い換えることも可能であり、その方が明確で分かりやすいように思われます。

 このように、「係る」については、他の用語で言い換えられる場合には、法令用語の平易化の観点からも、できる限り、これによるべきものと思われます。

(2) 準備書面ではどうか

 法律家が作成する準備書面等においても、「係る」は、簡潔で、便利な用語として多用される傾向があります。しかし、準備書面等は、抽象的な規範を内容とする法令と異なり、主として具体的事実を記述するものですので、必ずしも「係る」を用いなくても、具体的な事実関係に即した適切な表現ができる場合が多いと考えられます。また、準備書面等の作成の目的から考えても、「係る」を使用することに伴うあいまいさ、不明確さを避ける必要があります。

 このようなことからしますと、準備書面等においては、安易に「係る」を用いることは避けるべきでしょう。準備書面等においては、まず、他の適切な表現を用いることができるかどうかを十分に検討して、他の語で適切に表現できない場合に限ってこれを用いるように心掛けるのが望ましいと言えるでしょう。

(続く)

[弁護士 柳田幸三]

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