法制執務(立法技術)とは何か(その1)

1 法制執務と立法技術

(1) 法制執務
 「法制執務」の語は、法律とこれによって成り立つ制度(法制度)などを意味する「法制」と事務を執ることを意味する「執務」との複合語ですから、文字どおりには、法律及び法制度に関する事務を行うことを意味しますが、実務上は、もう少し限定的な意味を有する語として用いられています。

 実務上、「法制執務」とは、一般には、法令の立案及び審査に関する事務又はその事務を行うことをいい(狭義)、広義では、法やその制度(法制)に関して、立案、審査、解釈及び調査等を行う事務全般又はその事務を行うこといいます。

 法制執務の内容を理解するためには、法制執務を専門的に担当する組織である内閣法制局の所掌事務が参考になると思われます。
 すなわち、内閣法制局設置法第3条は、内閣法制局の所掌事務として、次のものを挙げています。
①閣議に附される法律案、政令案及び条約案を審査し、これに意見を附し、及び所要の修正を加えて、内閣に上申すること。
②法律案及び政令案を立案し、内閣に上申すること。
③法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること。
④内外及び国際法制並びにその運用に関する調査研究を行うこと。
⑤その他法制一般に関すること。

 上記の広義の「法制執務」の内容を具体化すると、おおむね、このような事務になるものと考えられます。なお、これらの事務のうち、①②が上記の狭義の「法制執務」に当たるものと考えられます。
 このほか、後述の立法技術と同様の意味で「法制執務」の語が用いられることもあります。これについては、(3)で述べます。

(2) 法令審査と法制執務
 法令については、その形式、用字、用語、表記、立案から公布に至るまでの手続等に関して、膨大な先例及び慣行の集積があり、これが体系化されて、法令立案に関する詳細なルール(決まり)が形成されています。法令は、このようなルールに従って立案され、そのルールに従っているかどうかについて厳格な審査がされることになっています。
 このような運用が確立している理由は、法令は、その解釈に疑義が生じないように、正確かつ適切な用語と文章で条文を記述する必要があり、また、法令の立案の都度、異なる考え方や方式によったのでは、混乱が生ずるため、一定のルールに従うことが不可欠であるからです。

 実際にも、法令は、このようなルールに厳密に従って立案され、内閣提出の法律案の場合、主管官庁において立案された法令案の内容については、条文の趣旨、条文の表現及び配列等から用字・用語に至るまで、内閣法制局において、極めて精緻な法令審査が行われています(内閣法制局及び後述の議院法制局の組織や法制局審査の実際については、西川伸一「立法の中枢 知られざる官庁・内閣法制局」に詳しい記述があります。)。

 すなわち、内閣が提出する法律案については、閣議決定が必要ですが、これに先立って、全件について内閣法制局による審査(予備審査)が行われます。
 内閣法制局のウェブサイトに掲載されている「法律のできるまで」によれば、内閣法制局は、主管省庁で立案した原案に対して、次のような点について、法律的、立法技術的にあらゆる角度から検討するものとしています。
①憲法や他の現行の法制との関係、立法内容の法的妥当性。
②立案の意図が、法文の上に正確に表現されているか。
③条文の表現及び配列等の構成は適当であるか。
④用字・用語について誤りはないか。

 また、内閣が制定する政令についても、全て内閣法制局の審査を経て閣議に付されるものとされています。
 したがって、法律や政令の立案等の事務を行うに当たっては、上記のような観点を含めた法制執務上のルールについての十分な知識が不可欠ですし、これを踏まえて法令を立案しないと、上記の法制局審査を通過することができず、閣議決定ひいては国会への上程も不可能になりかねません。また、省令その他内閣法制局による審査を経ない法規範についても、正確で、誤りのない立案を行うには、このようなルールについての知識が必須であるといえます。

 なお、いわゆる議員立法(議員が発議する法律案)については、議員の立法活動を補佐するために衆議院法制局・参議院法制局が設置され(国会法第131条)、議員の依頼に基づく法律案及び修正案の立案、法律問題の調査等の事務を所掌しています。

 

(続く)
[弁護士 柳田幸三]

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