法令のトリビア(1)―現行法令の数(その1)

 「法令のトリビア」では、法令に関する細かな雑学的知識(トリビア)を紹介します。

 我が国は、成文法国ですから、法は、基本的に成文の法令の形式で存在していますが、現在の法秩序を形成している現行法令の数がどの程度であるかについては、あまり知られていません(山本康幸氏(元内閣法制局長官、現最高裁判所判事)は、「実務立法技術」(株式会社商事法務刊)のはしがきにおいて、法科大学院の学生に対して、我が国の現行法律の数を尋ねたところ、皆の答えが、実際の数値とかなりかけ離れたものであったというエピソードを紹介し、立法の知識の初歩的なものも世間一般にはあまり知られていないことを指摘しています。)。
 そこで、本稿では、現行法令の数やその数え方などを紹介します。

1 法令の意義

 「法令」という語は、広狭さまざまな意味で使われますが、各種の法令用語辞典では、「法令」とは、国会が制定する法律と国の行政機関が制定する命令を合わせて呼ぶときに用いられる語であり、場合によっては、地方公共団体が制定する条例や規則、最高裁判所規則等の各種の法形式を含めていうこともある、などと説明されています(有斐閣法律用語辞典(第4版)、学陽書房法令用語辞典(第9次改訂版)など)。

 法制執務において「法令」と言うときには、一般には、成文の法規範から条約を除いたもの、すなわち、成文の国内法の意味で用いられことが多いものと考えられます(「新訂ワークブック法制執務」1頁、田島信成編著「法令の仕組みと作り方」(立法技術入門講座2)5頁)。
 成文法国である我が国においては 、「法」は、基本的に、成文法の形式で存在していますが、その大部分をここにいう「法令」が占めることになります。

2 国の現行法令の数

 総務省の法令データ提供システムに登載されている平成28年11月 1日現在の国の現行法令の数は、次のとおり、合計8,284とされています。

憲法 1
法律 1,960
政令 2,152
勅令(旧憲法時代、天皇によって制定された法形式) 73
府令・省令 3,750
閣令(旧憲法下において内閣総理大臣が発した命令) 11
規則(内閣府及び各省の長以外の他の行政機関が発する命令) 337
合計 8,284

 このうち、法律の数については、1年間に国会で成立する法律の数は、平均で100を超えており(最近の5年間の法律の公布数から見ると、内閣法制局のウェブサイトによると、平成27年が78、平成26年が137、平成25年が112、平成24年が102、平成23年が126で、年間平均では110を超えています。)、また、戦前の法律は別として、日本国憲法が施行された昭和22年以降現在までに成立し、施行された法律の数だけでも、10,000件を超えています。
 このことからすると、現行法律の数は、かなりの数に上るように見えますが、実際には、前述のとおり、1,960にとどまっています。

 現行法律の数がこのような数にとどまる理由はいくつかありますが、その最大のものは、国会で成立する法律の大部分が既存の法律の一部改正法であるからです。
一部改正法の題名は、通常、「○○法の一部を改正する法律」となりますので、平成27年に公布された法律の題名で調べてみますと、78法律のうち、一部改正法が59でその大部分(約4分の3)を占めています。なお、新規に制定された法律は18、既存の法律を廃止する法律は1でした。

 ところで、我が国の一部改正法においては 、「溶け込み方式」が採用されています。「溶け込み方式」は、改正の対象とする法律に対して、「第○条中、「A」を「B」に改める。」、「第○条中、「C」の下に「D」を加える。」、「第○条中、「E」を削る。」、「第○項を第△項とする。」など、改正の対象とする字句や条項等に直接改正を加える方式です。他の改正方式としては、アメリカ合衆国憲法のような「追加方式」(追補方式)(改正前の規定を残したまま、修正内容をそれまでの規定の末尾に修正条項として追加していく方法)がありますが、我が国においては 、現在、採用されていません。

 溶け込み方式においては 一部改正法が施行されると、その改正法の本則は改正の対象とする法律に溶け込んでこれと一体化し、改正後の法律の内容は、改正法が溶け込んだ後のものに変更されます。その結果、一部改正法の本則は、法規範としては存在しますが、これが溶け込んだ後の法律と離れた独自の存在意義はありませんので、改正後の法律とは別の法規範であるとは考えないのです(なお、この場合、改正規定自体は、元の法律に溶け込んで消えてしまう、などと説明されることがありますが、一部改正法は、施行後も、制定法律として効力が存続していますので、改正規定が消えてしまうというのは、比ゆ的な表現にすぎないものと思われます。)。したがって、改正法が制定、施行されても、法律の数が増加することにはなりません。

 既存の法律の全部を改正する全部改正法についても、同様です。また、既存の法律を廃止する法律の場合には、廃止の対象である法律は失効しますので、現行法律の数が減ることになります(この場合、既存の法律を廃止する法律自体は、一部改正法と同様に、その施行により目的を達しますので、現行法律としては数えられません。)。政令や省令などについても、同様のことが言えます。

 なお、このほか、有効期間が定められている法令(限時法)もあり、この場合は、その有効期間が経過すれば、その法令は、その廃止等の措置をまたずに失効しますので、法令数が減少することになります。

 このようなことから、年間100以上の法律が制定されている割には、現行法律の数はそれ程増加しないのです。
 先ほど紹介した平成27年に公布された法律については、現行法令の数に影響のない一部改正法が59、その増加をもたらす新規制定法が18、その減少をもたらす廃止法が1ですから、年間の増加数は、17になります。

(続く)

[弁護士 柳田幸三]

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