法令のトリビア(1)―現行法令の数(その2)

3 法令集によって異なる現行法令の数

 前記の法令データ提供システムは、総務省行政管理局が編纂したものですが、現行法規を網羅的に登載する民間の法令集である、衆議院法制局、参議院法制局共編「現行法規総覧」(第一法規出版・ウェブ版)では、平成28年11月29日までに公布された法令の数は、次のとおりとされています。
日本国憲法 1件
法律 2512件
政令 3501件
勅令 180件
省令 5339件
規則 816件

 法令集の編纂の基準時等が異なっていますので、一律に比較することはできませんが、この点は度外視して、単純に法律の数で両者を比較しますと、「現行法規総覧」の登載数の方が法令データ提供システムの登載数を552上回っています。
 そこで、なぜこのような違いが生ずるのかについて考察してみたいと思います。

 まず、考えられるのは、法令の実効性喪失についての判断の違いです。
 現行法令の数を計算するに当たっては、形式的には廃止の手続は採られていないが、実効性を喪失した法令が存在することを考慮しなければなりません。「実効性を喪失した法令」とは、形式的には、廃止等の手続きはとられていないが、①日時の経過、②関係事務の終了、 ③規律対象の消滅等により、適用される余地がなくなったか、又は合理的に判断して適用されることがほとんどないと認められるに至った法令をいいます(法令データ提供システム「廃止法令一覧」冒頭の説明による。)。このような法令は、形式的には存在していますが、実効性を発揮していない以上、現に効力を有する法令として数えることは適当ではありません。

 そうすると、このような法令は、現に効力を有する法令の数から除外することになりますが、このような理由により法令が実効性を喪失したかどうかを判断するのは、実際には、容易ではありません。

 実効性の喪失について例を挙げて考えてみましょう。
 阪神・淡路大震災に伴う緊急立法として制定された法律の一つに、「阪神・淡路大震災に伴う民事調停法による調停の申立ての手数料の特例に関する法律」(平成七年三月十七日法律第三十一号)という法律があります。
 この法律は、阪神・淡路大震災の発生の日(平成7年1月17日)に、阪神・淡路大震災の被災地区に住所等を有していた者が、同大震災に起因する民事に関する紛争につき、同日から平成9年3月31日までの間に、民事調停法による調停の申立てをする場合には、その手数料を免除することとしたものです。

 この法律の適用範囲について考えてみますと、この法律が適用される調停の申立て自体は、平成9年3月31日までに申し立てたものに限られていますので、同年4月1日以降は、申立時にこの法律が適用されることはありません。しかし、同日以降も、同年3月31日以前に申し立てられ、この法律の適用を受けた事件については、申立手数料の納付を要しない根拠としてこの法律が機能していると考えられますので、同日の経過により直ちにこの法律の実効性が失われるという訳ではありません。しかし、手数料の納付義務は、消滅時効により消滅することも考えられますし、申立てから長期間が経過すれば、手数料の納付義務について関心が持たれることもなくなり、この法律の適用が問題となる機会も失われると考えられます。そうすると、上記の日の経過後一定の期間を経れば、この法律は実効性を喪失することになると考えられますが、その時点がいつかを判断することは、必ずしも容易ではありません。

 ちなみに、上記法律は、現行法規総覧には登載されていますが、法令データ提供システムでは、実効性喪失法令に分類され、現行法令としては、登載されていません。なお、法令データ提供システムのウェブサイトには、「平成13年4月1日以降、実効性喪失と判断された法令」として、上記法律を含む24の法律、106の政令・勅令、47の府令・省令が掲載されています。

 次に、廃止された法律又は改正された法律についても、特定の事項について、廃止前又は改正前の法律の規定が適用される場合があります。すなわち、法令の改廃に伴う経過措置として、一律に新たな規範を適用するのではなく、旧法令の効力又は旧法令の下における制度を存続させる必要がある場合があり、このような場合には、特定の事項や規定について「なお、効力を有する。」、「なお、従前の例による。」などの表現を用いて、旧法令の効力又は旧制度を存続させることになります。

 この両者の表現は、旧法令の規定を適用することとする点は同じですが、「なおその効力を有する」の場合には、廃止又は改正前の法令がなお効力を有するとされていますので、効力が存続するとされる廃止又は改正前の法令自体がその適用の根拠となるのに対し、「なお従前の例による」の場合には、改正又は廃止前の法令自体は失効していますので、これが適用の根拠になるのではなく、「なお従前の例による」という規定自体が適用の根拠となる点で相違があります(ワークブック法制執務335頁、336頁)。

 具体例で説明すると、次のとおりです。
 借地借家法(平成3年法律第90号)は、の施行により廃止された、建物保護ニ関スル法律(明治42年5月1日法律第40号)、借地法(大正10年法律第49号)・借家法(大正10年法律第50号)の3法律を廃止しましたが(借地借家法附則第2条)、これに伴う経過措置を次のとおり定めています。

 すなわち、同法は、原則として、その施行(平成4年8月1日)前に生じた事項にも適用されますが(附則第4条本文)、①同法の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の朽廃による消滅に関しては、なお従前の例による(附則第5条)、②施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関してはなお従前の例による(附則第6条)、③施行前にされた建物賃貸借契約の更新拒絶通知及び解約申入れに関してはなお従前の例による(附則12条)など、一部の事項について廃止された上記の法律が適用される場合を定めています。

 そうすると、上記3つの法律は、廃止されたものの、その規定の一部については、借地借家法の施行後も、同法の施行前に設定された借地権等については、旧規定が適用される場合があることになります。

 上記の3つの法律の場合は、借地契約等の存続期間が長いことなどから、、なお従前の例による場合が長期間存続する可能性があると考えられますが、一般的に、上記のように経過措置が定められた場合、旧規定等の効力がいつまで現行法令として存続すると考えるかについては、上記法令の実効性喪失の場合と類似の判断が必要になり、その判断も容易ではありません。

 ちなみに、上記3つの法律は、いずれも、法令データ提供システムには登載されていませんが、「現行法規総覧」には、「この法律は、平成三年一〇月四日法律九〇号(借地借家法)附則二条により廃止されたが、当分の間掲載する。」との注記を付した上、「[旧]建物保護ニ関スル法律」、「[旧]借地法」、「[旧]借家法」として登載されています。

 以上のように、現行法令の数を厳密に確定するのには、かなりの困難が伴います。現行法令の数については、「約」、「おおむね」などを付した概数で表現されることがありますが、その理由は、このようなことにあると考えられます。

(完)
[弁護士 柳田幸三]

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